法話 74号4月・5月 発行
だいじょうぶだぁ
西川 正晃
「8時だョ!全員集合」をご存じでしょうか。今から50年以上前に放送開始されたと聞くと、もうそんなになるのかと少し驚きます。そこで一世を風靡した人気お笑いグループ「ザ・ドリフターズ」のメンバーで、テレビのバラエティー番組やドラマなどに出演して人気を集めたのが、タレントの志村けん(本名・志村康徳【しむらやすのり】)さんです。昨年の3月29日新型コロナウイルスによる肺炎のため亡くなられて、はや一年が経ちました。私たちに笑いと安らぎを与えてくださった方の死は、とても大きな衝撃でありました。同時に、志村さんの「だいじょうぶだぁ」の言葉に、私自身いつも励まされたことを思い出します。何か落ち込むことがあっても、悲しいことがあっても励まされ、次に向かっていくエネルギーに変えることができる言葉でした。
笑って聞いてたあの言葉
亡き人からの励ましと
聞こえて不安な私が安心となった
「だいじょうぶだぁ」と
この言葉は、浄土真宗仏光寺派の本山である仏光寺の掲示板に、2020年6月掲げられた標語です。志村さんが亡くなられた直後、多くのお寺の掲示板にこの「だいじょうぶだぁ」という言葉が書き出されたということを聞きます。「だいじょうぶ(大丈夫)」という言葉は一般に「安心できるさま」をイメージできるのですが、理由はそれだけではないようです。なぜ多くのお寺が「だいじょうぶだぁ」を掲げられたのか、少し仏典を温ねてみましょう。
『涅槃経(ねはんきょう)』という経典の中では仏の異名として「大丈夫」が登場しています。また『華厳経(けごんきょう)』の中に、「諸々の修行者は、この法に安住すれば大丈夫の名号を得る」という教えがあります。訳すると、悟りを得るために修行している菩薩たちが、よく学び精進すれば、お釈迦様と同じ大丈夫という称号を得ることができるという意味です。さらに、『大無量寿経(だいむりょうじゅきょう)』には、完全にさとりを得た人(仏)の別号として『調御丈夫(じょうごじょうぶ)』があります。インドの古典語であるサンスクリット語で、すぐれた御者(ぎょしゃ)、すなわち馬を操る人という意味で、そこから転じて「仏道への導き方がうまい人」となります。つまり、「だいじょうぶ(大丈夫)」とは本来、仏を意味する言葉でもあったのです。このように巧みに仏に導かれて、私たちが心から安心できる様子を、大丈夫という言葉は端的に表現しているのです。
浄土真宗では「南無阿弥陀仏」という念仏が重要とされており、「あなたを救うからだいじょうぶ。安心しなさい」という「仏様からの呼び声」とされています。ですから、「仏様からの呼び声」と「だいじょうぶだぁ」という言葉には、意味的に重なる部分があるのです。 志村さんのこの言葉に触れ、南無阿弥陀仏のはたらきが、この私に向けられているのだと味わわせていただきます。いろいろ悩みがつきない毎日ですが、「だいじょうぶだぁ」と笑顔で歩んでいける自分でありたいと願います。