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岐阜新聞真学塾 看護学部⑰ 伊藤周太郎

オープンダイアローグについて

岐阜聖徳学園大学看護学部助教 伊藤周太郎

 みなさんは、オープンダイアローグ(Open Dialogue)という言葉を聞いたことはありますか? オープンダイアローグとは、フィンランド発祥の精神療法なのですが、現在、精神医療の分野だけでなく哲学・思想の分野においても世界的に注目を集めている、実践のためのシステムや思想を指す言葉でもあります。

 オープンダイアローグは、1980年代に、フィンランドの西ラップランド地方にあるケロプダス病院で、家族療法のセラピストらを中心として開始されました。従来は薬が必要だった統合失調症の治療に高い効果があることが証明され、現在ではうつ病、ひきこもりなどの治療にも大きな成果を上げており、また、発達障害の治療法としても期待をされています。

 日本では、筑波大学医学部教授・精神科医の斎藤環氏や、精神科医の森川すいめい氏などによって、その普及がなされています。

 「開かれた対話」を意味するこの精神療法は、その特徴として、治療関係の水平性と透明性が挙げられます。オープンダイアローグにおけるミーティングの参加者は、患者、家族、友人、医師、看護師、セラピストなど、患者に関わる全ての人が対象となります。ミーティングは基本的に全員参加で、専門的な医療チームでの話し合いもすべて患者の目の前で行い、患者の同意なしに進めることは、一切ありません。

 従来の医療チームの連携にありがちな、医師以外の専門家が医師の指導を仰ぐなどの上下関係はなく、専門家も家族や友人も同じ立場で発言し、耳を傾けます。可能な限り「開かれた質問(「はい/いいえ」以上の答えが求められる質問)」から対話を始め、治療チームは患者やその他のメンバーの発言すべてに応答しなければなりません。

 斎藤環氏によれば、オープンダイアローグを導入した西ラップランド地方では、統合失調症患者の入院治療期間が平均19日短縮されたとのことです。また、通常治療では精神科治療薬の服薬が必要な患者が、この療法後は35%しか必要としなかったとのことです。

 日本においても、精神科医療は、旧来の「収容型ケア」から「コミュニティケア」へと転換が行われつつあります。こうした流れにおいて、いま一度、対話の可能性を探ってみること。こうした、人と人との対等で、多様な可能性に開かれた対話は、私たちの未来において、その重要性がますます高まってくるのではないでしょうか。(2021年12月12日岐阜新聞掲載)