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岐阜新聞 真学塾62 教育学部 音楽専修 宮本賢二朗

革命児モーツァルト

岐阜聖徳学園大学教育学准教授 音楽専修 宮本 賢二朗

 クラシック音楽の作曲家といえば、最初に名前が挙がるモーツァルト。18世紀後半には、貴族から市民までヨーロッパ中の人々がモーツァルトの書いた曲を口ずみました。流れるような旋律、色彩豊かなハーモニー、躍動感と迸るほとばし情熱、笑いと涙、人間を見つめる温かいまなざし。寂寥せきりょう。そして計り知れない愛。幼少から作曲を始めたモーツァルトの音楽には、どの作品にも生きた人間の姿が映し出されています。モーツァルトはクラシック音楽を貴族の宮廷から解放しました。君主のためではなく、万人が共感できる芸術へと変容させたのです。オペラ「フィガロの結婚」では平民である従者が,君主である横暴な伯爵を遣り込めます。それはナポレオン以前に行われた、音楽劇の中での革命でした。

 モーツァルトの生きた時代は啓蒙主義の時代でした。啓蒙主義とは、自由・平等・博愛を掲げ、知性の光によって迷信を退け、科学を進展させて新たな世界を切り開こうという思想です。モーツァルト自身も啓蒙思想の結社であるフリーメイソンの会員であったことは有名です。しかし、実際の啓蒙主義者たちは、貴族と平民を身分として平等と考えてはいませんでしたし、また女性には男性のような知性が存在しないとして、女性は結社に入会することすら許されていなかったのです。

 オペラ「魔笛」にはこのフリーメイソンの世界が描かれています。舞台は、啓蒙主義を信奉する民主的な君主ザラストロの城。そこで、主人公である王子タミーノが、王女パミーナと結ばれるための試練を受けます。最後の試練である火と水の試練。命をも脅かす試練に向かうのはタミーノ一人ではありません。パミーナも同行することを許されます。-「私が先に行って案内します。魔法の笛を吹いてください。笛が私たちを守ってくれますわ。」- この歌詞が歌われた瞬間、オペラの主人公は愛しあい協力し合う一組の男女となります。女性の力なくしては新しい世界は来ない。そして彼らを助ける笛とはすなわち音楽をはじめとする芸術を意味します。「魔笛」は20世紀半ばまで、とりとめもないお伽オペラと思われていましたが、実は、このことこそがこのオペラの中にモーツァルトが託した革命的なメッセージだったのです。

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